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――[9]――
本を返し終わり、月夏たちが昇降口に着いた時は、四時半を回っていた。
四時三十三分の電車には間に合わんな。
次は六時十分か。
駅まで歩いて三十分。
でも雪があるから、四十五分はかかる。
それを差し引いて、自由時間は約四十五分か。
本屋でマンガの立ち読みでもするか。
「んじゃ、先帰るわ」
そう月夏が冬花に別れを告げた後だった。
「ちょっと待ってよ」
冬花は月夏のコートのすそをつかんだ。
「あたしをおいていく気?」
なんだか力のこもった感じがした。
後ろにひっぱられる。
「お前、友だちと帰るんじゃなかったっけ? さっきそういってたじゃん」
「何いってんの。みんな帰ったよ。部活ないんだから」
「んじゃあ、友だちって誰だよ」
「月夏に決まってんじゃん」
……オレか!?
「ほかに誰がいるのよ」
「あ、……まあ、そうだよな」
月夏ばっと傘を開いた。
その中にに、すっと入っていく冬花。
今朝は傘を拒否していたのに、帰りはやけに素直。
「ん、何?」
「いや、なんでも……」
言葉に詰まる。
あたりまえだろ。
何度も断られたことだぞ。
それなのにこんなにあっさりと。
冬花らしいっちゃらしいが……。
でもまあ……、な。
深く考えるのはやめよう。
月夏は大きく息を吸い込んだ。
「じゃ、行きますか」
道路の両側にはでこぼこの雪のヤマ。
道には雪かきをしたあとが残っていた。
しかし、雪はどんどん降り積もっていく。
誰かの歩いた跡も見えるが、そんなのほんの少し。
足跡の上に降り積もる新雪。
そこに新しく、二組の足跡が刻まれていった。
しかしその後には、また新しい雪が降り積もっていく。
まるで二人の足跡を隠すかように。
<終>
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