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――[3]――
そんなことを考えていると、月夏は背後に人が近づいてくる気配を感じた。
「図書館行こ、月夏」
いきなり肩をたたかれる。
ゆっくりとすっていたラーメンのスープが鼻に入り、せきこんだ。
振り返ると、うわさの張本人、雪原冬花が立っていた。
「ごめんごめん。大丈夫?」
「大丈夫じゃ……ねえって」
のどに何かがつまった。
ちぎれたちっこい麺に違いない。
すげー気持ち悪い。
飲みかけのカップを置くと、月夏は胸をたたく。
そんな月夏から視線を冬花にずらし、シュウはいう。
「これから何かあんの?」
「うん。図書当番」
「ふーん」
冬花と月夏は、クラスの図書委員だ。
委員会はシュウと一緒にと決めていたが、ほとんどが男女一人ずつとなっていたので、月夏は冬花といっしょにした。
高校一年目。
委員会を決めた四月当初、知らない女子と組むのは少々抵抗があったのだ。
それにくらべ、幼いころからいっしょの冬花となら気が楽だ。
それが理由。
月夏に向き直るシュウの目は、なんか意味ありげ。
「早く行けよ」
と、どこか楽しげな様子で月夏の背中をたたく。
「やめろって」
反射的にいった言葉だったけど、シュウのおかげが、のど詰まりが回復した。
すっとして気持ちがいい。
これで残り汁が飲める。
しかし、目の前に置いたはずのカップがないことに、月夏は気づいた。
どこだ、シュウがかってにとったのか?
そう思った瞬間、消えたはずのカップが再び現れた。
横にはなぜか、冬花の手もくっついている。
「まさか、冬花……」
いやな予感は的中した。
のぞきこんだカップの中には、うすく茶色に染まった底だけが見えていた。
「おれの汁……」
冬花はにっこり笑っていった。
「ごちそうさま」
一滴も残っていない。
とけ残った粉末やら、コショウか何かの細かい粒やらが飲み口部分に連なっているだけだった。
「ったく……」
楽しみにしていたスープ。
これがめちゃうまだっていうのに。
金返せっていいたいところだが、こんなことで要求するのは大人気ない。
それに月夏は、冬花のうれしそうな顔を見たら、別にどうでもいい気がした。
「お礼にこれ、捨ててきてあげる」
月夏の気持ちをさとったのか、冬花はにっこりと空のカップを手に取る。
「あ、じゃあオレのゴミも」
シュウがパンの包み紙と、へこんだ紙パックを冬花に差し出た。
だけど冬花は、ラーメンのカップと月夏が持っていた割り箸だけをつかみ、教室の後ろのゴミ箱へとかけていった。
「秋山くんからは何ももらってないからね」
だそうだ。
教室後ろから、冬花が元気に声を出す。
「ほら、はやく」
本当は寒い廊下に出たくはないから図書室へは行かないつもりだった。
しかし、冬花のいうことには反論できない。
あの笑顔には負ける。
断れるわけないだろう。
「わりい、行ってくる」
月夏はあわてて、いすを後ろにひいた。
「ごゆっくり〜」
にやけたシュウの顔目に映った。
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