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 ――[1]――


「なあ、お前ら付き合ってんの?」

 雪がしきりに降り続く窓の外。
 それを見ながら、シュウはつぶやく。
 カップめんを食べる月夏の手が、ぴたりと止まった。

「ん?」

「だからさ、お前と冬花は付き合ってんのかって聞いてんの」
 ああ、そのことか……。
 いつもの話かと思いつつ、月夏は再び割り箸を動かす。

 学校での昼休み。
 月夏の本日の昼食はカップめん。
 寒い冬はあたたかいものに限る。
 冷たい弁当は気がひける。
   
 マッチで火をつけるという旧式のストーブは、今も壊れることなく稼動中だ。
 ストーブの上に常にやかんがあるから、お湯はそこで確保できる。

 シュウのめしは、購買のパン二つ。
 寒い廊下に出て、人ごみの中お目当てのコロッケパンとシーチキンサンドをゲットしてきた。

「で、どうなの?」
 シュウは月夏のほうに向きなおす。
「別に……。冬花とはただの友だちだ」
 
「またまた、みんな見てんだぜ。お前らが一緒に登校してくんの」
「何度もいうが、それは電車が一緒だからだ。一時間に一本しかないんだから、同じで当然」
 むっとしながら月夏は答える。

 二人の家は隣同士。
 親同士が仲良しなものだから、小さいころから一緒だった。
 
 月夏たちが住んでいるところは、学校からかなり離れた場所にある。
 歩いて登校できるシュウとは違い、二人は電車通学。
 最寄駅から揺られて一時間かかる。
 それから学校まで歩いて三十分。
 かなりの距離。
 学校からは途中までバスがあるが、二人とも徒歩を選んだ。
 歩いていっても、授業開始時間の三十分以上前に学校についてしまうのだ。
 これでバスを使ったら、四十分〜四十五分もの余り時間ができてしまう。
 誰もいない教室で、何をやれっていうのだ。
 それなら、運動したほうがいい。
 バス代も節約できる。
 二人とも、そう思った。

「それだけで一緒に歩くかよ。しかもアイアイ傘」
「あいあいがさじゃねえって」
 まったくしていないってこともない。
 だが、あれをあいあいがさなんて、いえるもんじゃない。

 冬花は不思議なヤツだ。
 雪がどんなに降ってても、傘をさしたことがない。
 男子ならともかく、女子で傘をささないやつはいない。
 前に一度、月夏はその理由を本人から聞いたことがある。
 冬花の答えは、

『雪が好きだから』

 雪と戯れながら歩くのは最高だっていうことらしい。
 紺色のフードつきのコートをまとい、頭にはニットの黒帽子。
 白い手ぶくろ、水色のマフラー。

 そんな格好で、冬花は雪の街を歩く。
 はらりとコートに落ちてくる雪の、ひとつひとつ、そのどれもちがう形をした雪を確かめるように見つめながら、冬花は前に進む。
 それはたいそう綺麗なものだという。
 熱で雪がぱっと解けたら、また別の結晶へと目をやる。
 その繰り返しがおもしろくて、なんだかくすぐったくて、楽しい気分になるらしい。

『かぜひくよ』

 月夏は傘をさしだすが、冬花は十秒と傘の下にいたことはない。
 くるくるとまわりながら、上を見上げたり、自分のコートに目をやったり……。
 人通りの少ない歩道とはいえ、あぶなっかしいことの繰り返しだ。
 そんな冬花に、
『落ち着いて歩けよ』
と、もう一度傘を差し出してみるのだが、やはり逃げられる。
 または、『へいき、へいき』と押し戻されてしまう。

 こんなやりとりが幾度か続く。
 だから、とてもじゃないけどあれを“あいあいがさ”なんていえない。
 

 雪がいくら降ろうが、冬花は傘をささないのだから。
 人が差し出す傘の中にも入ろうとはしない。
 真っ白になってもおかまいなしだ。
 まわりの人が見れば、「あの子、傘もささないでかわいそうだねえ」なんて思うに違いない。
 だれかが隣にいれば、「なんであの子を傘にいれてあげないんだろう」ってな感じだろう。
 
 いれたいって思うのはだれだって同じだ。
 それが普通。
 だから月夏は、冬花に傘を差し出す。
 逃げられるとわかってはいるが。
「幼なじみっていうけどさ、ただのいいわけにすぎねーんじゃねえの?」
 そのことについては、いつも
「んなことない」
 そう答える月夏だったが、本当のところはよくわからなかった。
 二人でいることが自然なのだ。
 もう、十五年も続いているのだから。



 

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