さくらメール受取人
今年もさくら,いっぱい咲きましたね〜。
とってもきれいでした。
そんな春にもらう便りって,どんな感じなんでしょう。
******
さくらメールの意味は,そのままにとってください。
僕はさくらさんからの手紙を受け取っています。
もちろん佐倉という苗字の方ではなく,木の“桜”さんです。
毎年,この花開く時期に。
彼女は僕の実家の前の,道路の向こう側にいます。
小学校入学のときにもらった苗を,植えたものです。
もう30年近くは経っていますから,かなり立派に育ちました。
あとから知ったのですが,彼女はソメイヨシノという種類で,数年で大きくなるとのこと。
僕があっという間に大人になったように,彼女もまた,一人前に成長しました。
彼女の横には僕の弟と妹のさくらもあって,それらもずいぶん大きくなりました。
弟,妹といっても,一歳ずつしか離れていませんからね。
見た目はもう同じです。
そしてさらにその横には,近所の子たちの分もあって,春には満開の桜並木になります。
今は散り始めかな?
実は一週間くらい前,実家に一度帰ったんです。
さくらを見に。
そりゃあもう,みごとなものでした。
枝の先にはピンクのふわふわした花びらがたくさんついていて,お日さまの下で気持ちよさそうに咲いているんです。
なんだか胸がくすぐったくなって,笑みがこぼれちゃいました。
風がなでるととけあうように踊り,うすく色づいた花びらが舞って。
周りの桜たちと楽しくおしゃべりしているようにも見えました。
僕の兄弟がみんな仲がいいように,さくらたちの間柄もよいようです。
植えたてのころは枝分かれもしていなくて,ただの一本の細い棒で,これがあの桜なのか,本当に大きくなるのか、と疑うほどでした。
しかしそれが今,空を埋め尽くすまで成長したんです。
うれしかったなあ。
僕のさくらは,もう一人の自分のようなものです。
ともに,成長しているんです。
小学校入学時から,どっちが先に大輪を咲かすかって,競い合っていた仲なんです。
だから毎年この時期,会いに行っているのです。
成長を確かめに。
正月にも様子を見に行きます。
雪がものすごいものでちょっと不安ですけど,きっと彼女は,寒さの中で来年のショーのプログラムを考えているんでしょう。
僕らをびっくりさせるために。
あれこれと楽しいことを考えなくちゃ,乗り越えられませんよ,実家の冬は。
そう,だから心配は無用。
(でも僕は,わかっているけど心配しちゃう)
雪が解けが始まると,つぼみがふくらんできます。
それが彼女からの,“わたしは元気だよ,これから始まるよ”っていう返事。
やがて花がぽつぽつと咲き,彼女のショーが始まります。
一年に一時だけの,華やかなステージ。
彼女にとって,一番目の花の開花が,もっともすてきな瞬間なんだそうです。
自分もうれしいし,自分を見てくれる人や動物たちもよろこんでくれるから。
命が生まれる瞬間っていうか,そんな感じなんでしょう。
ある意味,自分の子どもなんですよね,花は。
僕との育ち競争は,毎年五分五分ってところですかね。
でもちょっとだけ,彼女のほうが上手かな。
僕のほうが魅せられちゃうから。
だって,本当にきれいじゃないですか。
自分は年が経るごとに老けてくのに,彼女はますます立派になっていくんですから。
そりゃ,幹をみれば年をとったな……って思いますけど,まだまだいけるんです。
彼女にはこれからもずっと,がんばってほしいです。
天然記念物っていうのは無理かもしれないけど,“語り継がれていく木”として生きてほしいな。
桜って、全国にあるけれどやっぱ自分のさくらが最高ですね。
今過ごしている地域にだってきれいな桜はいっぱいあります。
だけど,思い出のさくらが一番です。
心が和みます。
小さいころからいっしょでしたから。
花びら一枚一枚にも彼女の想いがちゃんと込められていて,そこには僕にしか見えないものが刻まれているっていうか……。
“桜”を持っているのは,僕だけじゃありません。
誰にだって“自分の桜”があると思います。
一本だけとは限らないと思いますが,必ずあるはずです。
だから人は,桜の開花を待ち遠しく思うのです。
だから,桜の開花予想をニュースで流してくれるんだと思います。
夏の代表的な花はひまわりですが,“ひまわりの開花予想”,“ひまわりの開花宣言”,“ひまわり前線”なんていう言葉,聞いたことないでしょ。
探せばあるかもしれませんが,桜だけが大きく取り上げられているんです。
さくらって,不思議ですよね。
そういえばテレビや漫画などで,桜が“一年中咲く花”として使われているのをよく見かけます。
霞家の話とか,初音島の話とか、一人の女の子が七人になっちゃう話とか,いろいろ。
ますます桜に興味をひかれちゃいます。
最後に別れるとき,僕は彼女いいました。
「ありがとう」
と。
******後日談******
確かに,桜って不思議な木です。
“一番魅了してくれる木”だからでしょうか。
(これはあくまで個人的な意見)
それとも、人がそう思っているからますます思い込んじゃうの?
わたしも桜が好きです。
桜前線の通過情報を聞くのも好きです。
テレビで“○○で今日,桜の開花宣言が出されました”と聞くと,うれしくなっちゃいます。
ドミノがなめらかに倒れていくような,砂浜に波が押し寄せていくような,サーっとした流れが,桜たちの伝言ゲームのように思えるからです。
“春ですよ”“春がきましたよ”“みなさん,準備はいいですか”って,共に呼び起こしていく感じ。
その共鳴が大好きです。
桜の声が,日本列島をかけめぐっているんです。
南から北まで,すべての桜が,みんな繋がっているって思いませんか?
2004年4月23日 卯月未衣名