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　１｜２｜３


――３――

　りんごちゃんは何もなかったように，
「おかえり」
と、玄関でお母さん(近所のスーパーでのパートをしている)を出迎えた。
　そしてそのあと，
「イメージチェンジしてみたんだ。わかる？」
　なんて，自分の目を指差す。
　なんの抵抗もない、自然なしぐさ。
　
　あ、秘密にしようっていったのに、なんで自分からばらすの！

　心の中でさけぶわたし。
“どうしたの，その目！”なんてぜったいいわれるよ。
　ま、逆にへんに隠したらよけいにあやしまれるけど。そこんとこがむずかしいんだよね。

　リビングから、はらはらしながらその様子を観察していた。
　二人してどたばたしたら、あやしまれるだろうから、わたしはここで待機。

　りんごちゃんの行動にわたしは心配ばかり。
　でも，お母さんの反応は思わぬものだった。

「ん？　りんごの目はあいかわらずの一重だけど？」

　は？
　予期せぬ言葉。
　そこじゃないだろう、と，一人でつっこみをいれた。

　夕方といっても五時前で，しかもまだ太陽は沈んでいない。暗くなんかない。見間違える理由はない。
　部屋の中は明かりだってちゃんとついているんだ。
　ここからだって，りんごちゃんの緑目ははっきりわかる。
　こんなによく見えているのに，どうしてそこを問わないんだろう。
　だれだって気が付くと思うんだけど……。

　りんごちゃんが自分の目が一重でいやっていうは、家族みんなが知っている。
　だからお母さんがそこを指摘する気持ちもわからないでもない(ちなみにわたしも一重。双子だから当然同じだ。だけどわたしは気にしてない)。

　不思議とお母さんには，緑色の瞳が見えていないらしい。

　りんごちゃんも，お母さんのその思わぬ反応に戸惑っていた。
「何？　りんご。目に何かしたの？」
　お母さんの目には、りんごちゃんの目の色が見えているはずなのに，まったくの無視。
　わたしはじれったかったのでいってやった。

「りんごちゃんの目，いつもとちがう色じゃない？」
　でもすぐに後悔（りんごちゃんを守るって決めたのに……ごめん、りんごちゃん）。

　あ〜、もうぜったいばれる。
　そう思ったのに，

「だから何が？」

　お母さんはそういった。
　
　もしかして、見えてない？

　なんだかじんわりとこみ上げてくるものがあった。
　本当に、りんごちゃんの目に何か秘密があるような気がした。

　りんごちゃんもわたしと同じこと、考えたのかな。
　もうそれ以上求めることはやめた。
「な〜んだ。変わってないか。ちょっとビューラー新しく変えてみたんだけどな」
って、りんごちゃは自分のまつげを触りながら、そういった。

「ちゃんとここにフィットして、いい感じなの」
“何この子？”って顔してたけど，「ああ、そういうこと」って、お母さんはそれで納得してくれたみたい。

　りんごちゃん……。

　何したのって怒られるのはいやだけど、気づいてほしかった。
　このむなしさって何？
　ちょっとくやしい。
　驚く顔、見てみたかったな。

「ねえ、今日のおやつ何？」

　さっきの会話を忘れさせたいかのように、りんごちゃんはさっさと話題を変えた。
　お母さんの手には、野菜やカレーのルーなど、いっぱいモノがあふれている買い物袋が二つ。
　透き通ったビニール袋からは，三連のリンゴヨーグルトが見える。
　りんごちゃんにもそれが目に入ったらしく，
「あたしの好きなヨーグルト！」
って，うれしそうな声をあげた。
　名前とは関係ないけど、わたしとりんごちゃんの大好物はリンゴ。
　かじるといい音がして、甘い汁が染み出して、口の中に広がって……。
　思わず笑みがこぼれちゃう。
　 　さて、夜は仕事から帰ってくるお父さんの出迎え。
　帰宅時間はだいたい八時過ぎ。
　お風呂に入ったあと、わたしとりんごちゃんは玄関で身構える。

　お父さんは気づいてくれるよね、りんごちゃんの目。
　ひそかに期待していた。
　
　しかし，お父さんも何もいってくれなかった。
　娘が何をしたって関係ないっていうものではなくて，本当に何も気づいていないっていう感じ。
　わたしたちは顔を見合わせるしかなかった。

“カラーコンタクトなんてどこで買ったの？”“いくらしたんだ？”
　なーんて聞かれたら困る。
　だけど，何もいわないってどういうこと？
　それはそれで、心がむずむずする。

　あれは、絶対気が付いていないっていうふうだった。
　わたしが初めてりんごちゃんの目を見たときは，瞬間驚いたのに。
　すぐに『どうしたの？』って聞き返した。
　それが普通の反応ではないだろうか。

　――つづく
　　　　　　
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　というわけで、第３回目終わり。
　要するに、りんごちゃんの目の色はお母さんたちには見えなかった、ということです。
　次は学校の友だちに、目のことを話します。
　








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