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 さて。

 りんごちゃんは額に汗びっしょりな姿でこういう。
「ほらほら、見てみて」
 声はいつもよりはずんでいた。

 何を見てほしいのかと振り返ると、そのちっちゃな指先には、右目だけ色がちがうりんごちゃんの瞳があった。
「ん?」
 りんごちゃんの目がどうなったのかわからなくて、自分の目をこすりながらわたしはもう一度じっくりのぞきこむ。

「ね、すごいでしょ。目、緑色だよ」
 本当に、りんごちゃんの瞳は緑色をしてた。
 黒くない。

 思わず一歩引く(一歩といってもいすに座っているから、体を後ろにそっただけだけど)。
 しかしびっくりしているわたしをよそに、りんごちゃんはむちゃくちゃ喜んでいるっぽい。
“どうしよう”ってとびこんできたくせに、
“あたし,正義の味方にされちゃった”だもん。

 一重だから自分の目がかわいくないと、毎日文句をいっていてるりんごちゃん。
 でも今日は、普段の何倍ものかわいさがあふれている。
 いつもより目がぱっちりしていた。

「それ、カラーコンタクト?」
 りんごちゃんの目が緑色ってことが信じられなかった。
 りんごちゃんはクラスの中でもおしゃれだけど、カラコンまでする? 
 っていうか、カラコンだよね?
 ホンモノの色じゃないよね?
 そうであることを祈った。
 でも、もしホンモノだったら……。

 ほらほらって、りんごちゃんはわたしに顔を近づけてくる。
 何度も見てみるけど、それは透き通った緑色。
 何かを入れて色を変えたというより、素から緑色っていう感じ。
 光の加減とかでもない。
「本当にコンタクトじゃないの?」
「そんなんじゃないって。あたし、目に何かを入れるなんて、そんなコワイことできないもん」
「じゃあ、どうしたの?」
 待ってましたとばかりに、りんごちゃんは答える。

「ファンタジックな出会いをしちゃったの。今そこで」

と,勉強机横の窓の下を指差す。
 ここ、わたしとりんごちゃんの部屋からは,手前にうちの庭と玄関が見える。
 庭は小さいけれど,お母さんがガーデニングにこっているため,かなり雰囲気がいい。
 お客さんがくるたびに、“きれいな庭でいいですねえ。お宅を見習いたいわ”なんていわれているほどだ。
 今はマリーゴールドがみごろで、石畳の通り道の左右を、きれいに演出している。

「あたし、玄関先で知らないおじいさんに道を聞かれたんだ。“図書館はどこですか”って。この眼はそのお礼」
 りんごちゃんは“ふふっ”て笑う。

 わたしの家はまっすぐな道路に面していて、その道の向こうには町の図書館がある。
 例のおじいさんは,そこへ行こうとしたのだろう。
 町立図書館といっても,わりと広いし、資料は多い。
 だからほしい本は、たいていそこで見つけられる。

「おじいさんさ、紙袋にいっぱい古い本持って歩いていたの。きっと、その本返しに行く途中だったんだよ。重そうですね、手伝いましょうかって声をかけたら、気持ちだけでいいですよ、だって」
 りんごちゃんは、ジェスチャーでその本の多さを示す。
 ハードカバーが20冊弱ってとこだろう。
 利用カード、いったい何枚持っているんだろう。
 
「それでその後、“ここの道まっすぐ行って坂のぼって,信号のある十字路を右だよ”って説明してあげたの」
 わたしは、りんごちゃんの説明が正しいのか,頭の中でシュミレート。
 うん,道はあっている。複雑は道のりじゃないから,きっとたどりつけたはずだ。
「それでその色? いったい何されたの?」
 りんごちゃんは無事ここにいるのに、急に心配になる。
 だって,優しそうな人に感じるけど、相手は知らないおじいさんだよ。
 でもりんごちゃんは、そんなことはこれっぽっちも思ってなかったらしい。
 
「お礼にって、マジック見せてもらったんだ」
「マジック?」
「それがすごいんだって」

『ここに一つのビー玉があります。これを目に通して見ると,違った世界が見えます。実はこれ、魔法の眼なのです。お嬢さんがその運命の場所に行ったとき,きっとすてきな体験をするでしょう』

 りんごちゃんの話によると,例のおじいさんは胸ポケットから緑色のビー玉を取り出し,そんなことをいったという。

「そのあと,ビー玉をあたしの右目に近づけたかと思ったら,それがすっと目の中に入ってきてね、びっくりしちゃった。目がビー玉を吸い込んだって感じもしたんだよね。ひやりとしたよ。ちょっと恐かった。そんで瞬間,閃光がはしったような感覚がして目を閉じちゃったんだけど、なんだか熱い感触が伝わってくるんだよね。  しばらくたって目を開けて、気が付いたらおじいさんの姿はなし。  図書館に行っておじいさんを探すという手もあったけれど,今そこから帰ってきたばかりだし、それより自分の目が気になるじゃんねえ。あわててバックから手鏡を取り出したんだよ。そして自分の目を確認」

 りんごちゃんはそこでいったん、口を閉じた。

「……そしたら,右目だけが緑色だったって?」

「うん*」
 りんごちゃんは元気よくうなずく。

 何をいっているのだろう。
 理解できなかった。
 だって、この世にそんなファンタジーはありえない。
 魔法の世界じゃないんだよ。
 現実世界だよ?
 ビー玉が目になった?
 ありえないって。

 でも,確かにりんごちゃんの目は黒じゃなかった。
 右目だけ,緑色をしている。

 これは現実だ。夢じゃない。
「ねえ,ちゃんとモノ,見えているの? ビー玉なんでしょ? 上としたが逆になっているとか、サングラスかけたみたいに,色,混ざっちゃったりしているんじゃないの?」
『オズの魔法使い』の一場面を思い出す。
 エメラルドの都の色つきメガネみたいな感じなのかな?
 でもちがうみたい。
「それがね,片目つむってみても,エメラルドグリーンの世界じゃないんだよ」
 りんごちゃんは否定した。
 ってことは、どういうことなんだろう。
 
 本当に、緑色ってことなんだよね?

 わたしの目が黒くても、世界が黒ずんで見えないように。
 りんごちゃんの目も、世界はエメラルドグリーンじゃない。

 りんごちゃんを見ていると,なんだか異世界からきたもう一人の自分のようにも見えた。
 目の前に立っているのはまさしく自分の双子の片割れではあるんだけど,目の色だけはちがうから。
 目の色がちがうってことは,やはり違う国からきた子って感じじゃん。

 ……なあんてね。現実主義のわたしが、そんなこと思うわけないじゃん。

「ねえ,初めにいってた“正義の味方”ってどういうこと? これと何か関係あるの?」
 わたしは話を初めに戻す。
 りんごちゃんは、自分のことを“正義の味方”って表現した。
 十二歳の小学六年生が正義の味方やっているわけない。
 マンガじゃそうめずらしくもない世の中だけど、ここは現実なのだ。

 りんごちゃんは,机をバンっと両手でたたく。
「関係おおありだよ」
 すごいまじめだ。
「まさか、“片目の色だけちがう人はなんらかの運命に導かれる証拠=物語の主人公=正義の味方”なんて思っているんじゃないでしょうね?」
 何かの小説にありそうなあらすじを思い出してみる。
 りんごちゃん、絶対そう思っているから。

「ちがうの?」
 きょとんとした感じで聞き返すりんごちゃん。
 やっぱり、そう理解していたらしい。
 
 小説の中でしかなかったありえない世界が現実になったから?
 しばらく時間を置いて落ちついて,そんで考えを改めなおした方が……。
 う〜ん、でもいきなり自分の目が他人の目みたいになっちゃったらショックとか,まずはその気持ちが一番ではないのか?
 わたしだったら,わけがわからず混乱しちゃう。

 お母さんになんていうつもりなんだろ。
 コレ知ったら、、どういう反応するんだろ。
 カラーコンタクトって手もあるけど、小学生がそんなの持っているわけない。
 わたしたちは視力がいいから、メガネもない(あったとしても透明レンズだから意味ないけど)。
 サングラス? それもないよ。
 小学生には早いでしょう。

 いろいろ考えた結果、りんごちゃんはそのままやり過ごすことにした。

「わたし、りんごちゃんがおこられないように協力する。ぜったい元に戻して見せるから」
 うれしがっていても、どこかに不安はあるはずだ。
 それを取り除いてあげよう。
 それがわたしの使命。
 りんごちゃんが緑色の目をしているのは、二人だけの秘密。

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 というわけで、第二回目終わり。
 
 この回は、自分が好きなキーワードを詰め込んでみました。
 目の色が普通とはちがう子、夢見る女の子、おじいさん、双子……。

 緑色の眼になってしまったりんごちゃん、次はお母さんとお父さんにそのことを打ち明けます。









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