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「一檎ちゃん,どうしよう。あたし,正義の味方にされちゃった」
 
 突然わたしの部屋におしかけてきた,りんごちゃん。小学六年生。
 夏休みの宿題をやってたわたしに、後ろからようしゃなくとびついてきた。
 やわらかくてふわふわした長い黒髪が、わたしのほおにあたる。
「ちょっと,りんごちゃん」
 わたしは勉強の手を止め、じゃまじゃまとはらいのける。
 だって、これはいつものことで、めずらしくない。
「どうせいつものうそでしょ」

 りんごちゃんは本が好きだ。本が好きだから、現実とファンタジーの境界線を考えていないんだと思う。いつも現実の話を織り交ぜた話をする。
 今日だって,魔法や妖精やらのファンタジー小説を読むために図書館に行ったのだ。
 りんごちゃんはほとんど毎日図書館へ行く。
 わたしが図書館に行く理由といえば,涼みにいくか宿題のための調べものくらい。
 りんごちゃんの場合、本を借りるほかにもあるんだけど,これがけっこう笑える。

“雫ちゃんみたいな出会いをするため”

“雫ちゃん”っているのは,わたしもよく知っている少女まんがの主人公の名前。本好きの雫ちゃんは,図書館の本の貸し出しカードを通じて運命の男の子と出会う。
 映画にもなった名作。

 りんごちゃんはそれにあこがれている。
 しかしこの町の図書館も,周辺の図書館も,もはやすべてがコンピュータ化されており,そんなカードは存在しない。
 利用者がどんな本を借りたのか,プライバシーを守るためっていう理由も含んでいる。

 誰がどんな本を借りたかなんてわからない。
 自分と同じ本を借りている男の子なんているのかわからない(わたしはいないと思うけど)。
 カードがなければ謎のまんま。
 カウンターで図書館員さんがいじっているあのコンピュータを見ればわかるんだろうけど,わたしたち一般人にそんなことはできるわけもない。
 だから,雫ちゃんのような出会いは夢のまた夢。
 それでもりんごちゃんは,何かを求めているらしい。

 わたし,森野一檎,同じく小学六年生。りんごちゃんとは同じ屋根の下に住む双子。

“どっちがお姉ちゃん?”

   友だちによく聞かれるけど、わたしにその概念はない。
 お母さんのおなかの中から外に出るには一番二番って順番あるけど、この世に生を受けたのは同時でしょ。
 同じ日、同じ時間、わたしたちは生まれた。
 だから対等で、姉も妹もない。

 一卵性だから、顔も髪形も背の高さも似ている。服も持っているのはほとんど一緒。
“買い物が楽なのよ〜”っていうのがお母さんの口ぐせ。
 色ちがいってのもないのを見ると、双子をアピールしたいのか、人をだましたいのか、そんな下心もあると思われる。
 でも、両親がわたしたちを間違えることは一度もない。
 同じ服で同じ髪形していれば、たいていの人は区別が付かなくなるのに。
 何でだろ? 
 やっぱ親だからかな。
 初めからずっと、わたしたちの成長を見てきているんだから。

 うちの両親は、名前の付け方にもこっている。
 双子の名前って,たいてい似通っている。
 マナとカナとか、アイとマイとか、どこか共通点がある。
 うちは“りんご”と“一檎”。
 読みでは果物つながり。漢字にすれば林檎つながり。
 森のリンゴとイチゴ。
 それにどんな意味があるのかは、教えてもらったことはないけど、なんとなく、恵の森に囲まれて幸せいっぱいっていう感じ。
 
 そんなわけで、わたしは自分の名前が気に入っている。
 理由は他にもある。  めずらしい漢字使ってっるとこ。
“一檎”でよかった。
“苺”だったら、フリフリの洋服をまとったかわいい子って感じじゃん。
 わたしはそこまで女の子らしくないから。
 むしろ、りんごちゃんのほうが似合ってる。


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 短いけれど、とりあえずここまで。
 プロローグ的なところで終わってしまいましたが、次はどうして“正義の味方”っていうお話です。       








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